2015.06.02更新

労働協約の効力は,労働組合に入っていない従業員には適用されないのが原則ですが,4分の3以上の従業員を組織する労働組合が締結した労働協約は,非組合員にも適用されます(労働組合法17条)。

労働協約が非組合員に適用されるかどうかにつき有名な事例があります。ある会社は,会社合併後労働条件が統一されておらず,これが長年の懸案となっていました。定年も63歳と57歳があり,また,退職金規定も二本立てでした。その後,経営悪化を理由に定年を57歳に統一し,退職金の乗率も引き下げる労働協約が締結されたのですが,非組合員がこの労働協約は自分にとって不利益であり適用されないはずだとして争ったのです。以下,労働協約の効力についての理由部分を引用します(朝日火災海上事件‐最判平成8・3・26民集50-4-1008)。(以下引用)‐ 労働協約には、労働組合法一七条により、一の工場事業場の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められている。ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一の事業場の四分の三以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容・労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。‐(ここまで引用)
 このように,判例は,労働協約についての一般的効力を定める労働組合法17条は,その有利不利を問わず非組合員にも労働協約を及ぼす趣旨であるとしたうえで,労働協約を適用することが著しく不合理であるときには当該労働協約を非組合員に及ぼすことはできないとしたのでした。そして,事案の解決としては,非組合員である労働者について57歳が定年とされて退職金も減額されるのは著しく不合理であるとして労働者側の訴えを認めたのです。

 

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投稿者: 今村法律事務所

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