2015.05.25更新

相殺は,金融機関にとっては,効果的な債権回収手段ですが,破産手続や民事再生手続などの法的整理手続との関係では,相殺権の行使に制限がなされています。
まず,破産債権者が破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき,破産債権者は当該債務を受働債権とした相殺はできません(破産法71条1項1号)。たとえば,破産債権者が破産管財人から破産財団に帰属する財産を買い受けた場合の代金支払債務などについて相殺ができないのです。この場合に相殺を認めてしまうと,破産手続開始時に相殺に対する合理的期待をもっていたわけではないのに,破産債権者はこのような債務負担・相殺によって対価的な利益を取得することになるからです。
また,債務者が支払不能になった後,破産債権者と債務者との間で,悪意で破産債権との相殺に供する目的で,破産者の財産処分を目的とする契約等を締結してする相殺は認められません(破産法71条1項2号)。これは,例えば,支払不能にあった債務者(のちの破産者)所有不動産を債権者に対して売却させ,破産債権者がその債権と売買代金債務とを相殺する場合が挙げられます。これを認めると,破産債権者は,既に経済的価値を失っている破産債権を有しているにすぎないのに,相殺によって債権の名目額にみあった価値を有する不動産を取得する結果,他の債権者を害する結果となるためです。
このように,債務者の財産の適正かつ公平な清算を目的とする破産法との関係では,抜け駆け的な相殺に債権回収は許されていないのです。

 

当事務所では,熊本市内だけでなく,近郊の八代,人吉,菊池,阿蘇,天草各方面にお住まいの方のご相談にも対応しています。相談受付ダイヤル(096(288)6686)にお気軽にお電話ください。

投稿者: 今村法律事務所

今村法律事務所 096-288-6686

初回無料相談 法律に関するQ&A 弁護士コラム