2015.08.05更新

諸外国では相続に関する差別を廃止する立法が続きました。平成7年大法廷決定時点でこの差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により,フランスにおいては2001年(平成13年) の「生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規定の現代化に関する法律」により、嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別がそれぞれ撤廃されるに至りました。現在、我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けている国は、欧米諸国にはなく世界的にも限られた状況にあるそうです。我が国は,昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和54年条約第7号)を,平成6年に「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第2号)をそれぞれ批准しました。これらの条約には,児童が出生によっていかなる差別も受けない旨の規定が設けられています。また、国際連合の関連組織として,前者の条約に基づき自由権規約委員会が,後者の条約に基づき児童の権利委員会が設置されています。これらの委員会は、上記各条約の履行状況等につき、締約国に対し、意見の表明や勧告等をすることができます。我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については、平成5年に自由権規約委員会が、包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告しました。その後、上記各委員会が、具体的に本件規定を含む国籍戸籍及び相続における差別的規定を問題にして,懸念の表明、法改正の勧告等を繰り返してきました。最近では、平成22年に児童の権利委員会が,本件規定の存在を懸念する旨の見解を改めて示しています。このような世界的な状況の推移の中で、平成25年9月4日、最高裁判所は、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とした民法900条の規定を違憲と判断したのです。

 

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投稿者: 今村法律事務所

2015.08.04更新

昭和22年民法改正以降、我が国において、社会経済状況の変動に伴い婚姻や家族の実態が変化し、家族の在り方に対する国民の意識も変化してゆきます。戦後の経済の急速な発展の中で職業生活を支える最小単位として,夫婦と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加します。それとともに、高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり、子孫の生活手段としての意義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じることになりました。昭和55年民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引き上げられるなどしたのは、このような社会の変化を受けたものです。さらに,昭和50年代前半頃までは減少傾向にあった嫡出でない子の出生数は、その後現在に至るまで増加傾向が続いているほか、平成期に入った後、いわゆる晩婚化・非婚化・少子化が進み、これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加してゆきます。それとともに、離婚件数、特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加するなどしてゆきます。このように、戦後70年、婚姻や家族の形態が著しく多様化しており,これに伴い,婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいます。なお、非嫡出子の相続分規定を巡る諸外国の状況も変化してゆきます。1960年代後半(昭和40年代前半)以降,諸外国の多くで子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平等化が進みました。

 

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2015.08.03更新

平成25年9月4日、最高裁判所は、非嫡出子(いわゆる婚外子)の法定相続分を嫡出子の2分の1とした民法900条の規定を違憲と判断しました(平24(ク)984号 ・ 平24(ク)985号)。それまでの判例では、婚外子の法定相続分を嫡出子の2分の1とした民法900条の規定は法律婚の尊重と非嫡出子の保護との調整を図ったものとして合憲とされていました(最大決平成7年7月5日)。このように、ある時期に合憲とされていた規定が少し時間が経過した後、違憲とされることがあります。これは、民法を含め法律の解釈は、憲法、その時代の価値観や社会実態、諸外国の状況などに支えられているからです(もちろん、裁判体の構成が変わることも影響していることがあります)。憲法24条1項は、「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。」と定め、同条2項は「配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と定めています。これを受けて,民法739条1項は,「婚姻は,戸籍法(中略)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。」と定め,いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用しています。一方,相続制度については,昭和22年法律第222号による民法の一部改正(以下「昭和22年民法改正」)により,「家」制度を支えてきた家督相続が廃止され、配偶者及び子が相続人となることを基本とする現在の法定相続制度が導入されました。しかし、家族の死亡によって開始する遺産相続に関し、非嫡出子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定は、現行民法にも引き継がれました。このように、昭和22年には、日本国憲法制定とともに「家」制度を支えてきた家督相続は廃止された一方、相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする国民意識は残ったのでしょう。また、法律婚を正当な婚姻としこれを尊重・保護しようとする反面、法律婚以外の男女関係あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識はまだ残っていたのでしょう。なお、この改正法案の国会審議においては本件規定の憲法14条1項適合性の根拠として,非嫡出子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出でない子の相続の取扱いに差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げられていたといいます。このように、諸外国の立法例が民法900条の解釈に影響を与えていたことがわかります。

 

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